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協同の発見 小林さんインタビュー

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協同の発見 No.361 / 2022年12月号 より

安心して失敗ができる場所 -教員から派遣・アルバイトを経てたどり着いた協同労働

 

話し手:小林 明日香(みなと子育て応援プラザPokke副施設長)

聞き手:岩城 由紀子(協同総研)

 

 JR田町駅を降りて数分歩くと見えてくる、大きな都営アパートの1階部分にあるのが「みなと子育て応援プラザPokke」です。2008年から現在まで労協(ワーカーズコープ)センター事業団が運営しています。来館した0歳~3歳児の乳幼児親子の居場所や交流の場となる「子育てひろば」事業と、事前申請が必要な「保育(乳幼児一時預かり・トワライトステイ・ショートステイ)」事業が行われています。

ここでは、副施設長の小林明日香さんにインタビューをしました。小林さんは副施設長となった今でも家政婦の仕事を続け、さらに演劇活動をライフワークとしています。「すごく活動的ですね」と伝えると、「そうじゃなくて居場所がいくつもないと不安になるんです。こんな私でも副施設長を務めさせてもらえるのがPokkeの凄いところです」と返ってきました。

 

早速ですが以前は小学校の先生をしていたと伺いました

 大学を卒業して、7年間地元の群馬県で小学校の先生をしていました。しかし、段々と感情が湧かなくなり、今考えれば鬱のような症状だったのかなと思いますが、当時は病院に行くという発想もなく周囲の反対を押し切って退職しました。そして、実家にも居づらくなり、土地勘のある東京でアルバイトや派遣、家政婦の仕事で生計を立てるようになりました。これまで先生として敬われ信頼されていた立場から、アルバイトや派遣では今までの経験が全く役に立たずどんどん自信を失うようになりました。

 そんなとき、ミュージカルサークルに入り、段々と感情を取り戻し、役として人と触れ合うことにも抵抗がなくなっていきました。サークル仲間とは肩書に関係なく打ち解けることができました。今から考えると以前は、「良い先生だと思われなきゃ」という思いに縛られていたのかもしれません。

 

ミュージカルサークルに入ったことは大きなことだったんですね

 まるで、暗闇から出てきたモグラが青い空を飛ぶ鳥を見たような感覚でした。先生として教壇に立っていた立場がなくなり、今まで経験したことのない社会の厳しさの中で失っていた自信を、演劇を通して少しずつ取り戻しました。また、貧血気味になり働き方を考えるようになった39歳のとき、「もう一度子どもの仕事がしたい!」と思うようになりました。そんなとき、読売新聞でワーカーズコープの求人が目に入りました。募集欄には、「子どもと遊べる人」「資格不要」と書かれていて、これならできると思いました。すぐに電話して、一次面接に受かって、次に二次面接を受けました。面接を受けるときに決めていたのは、「無理をしない」ことでした。そうしたら、演劇をやっている話を楽しそうに聞いてくれて、こんな感じでいいの?と思ったのですがPokkeで働けることになりました。

 

ワーカーズコープで14年働いているというのは長い方ですよね。

 そうですね。教員は7年でやめてしまったので、次に働くときは10年以上働くという目標を持っていました。10年表彰を受けて、他の人だったらこんなものと思うかもしれませんが、私はもらった表彰状を見ながら家で泣きました。金銭的な余裕がなかった中で大学を卒業させてもらったのに教員を辞めてしまったという親への罪悪感と恩返しの気持ち、世の中から認められたという気持ち、そして頑張った自分が嬉しかったという気持ちでした。

 Pokkeでは10年以上働いている人も多いです。だから働いていてここがとても良い職場だとわかっているのですが、例えば出資金とか協同労働をうまく言語化できないため、人に紹介できないというジレンマがあります。だから、「子どもがかわいいから働かない?」と誘い、私も何人か紹介しています。しかし他の保育園などは待遇もいいし、それに保育をやりたい人は専門性を高めてキャリアを積んでいきたい人が多いことに気が付きました。ワーカーズコープの子育ての「子どもの見方」や「話の聞き方」はとても魅力があるのに、それが専門性として深まっていかないことで魅力が伝わり切らないと感じます。ワーカーズコープの子育てのキャリアを積めるような研修制度があればと思います。

 

仕事をしていて楽しいことは何ですか?

 Pokkeで働き始めてすぐに、0歳の赤ちゃん連れのお母さんから「トイレに行きたいので抱っこしていてください」と言われ、カチカチになりながら抱っこをしていたら、トイレから出てきたお母さんから「ありがとう」と言われました。そのお母さんのありがとうは本当のありがとうだったんです。他の仕事でも「ありがとう」と言われることはありますが、こんなに本気のありがとうはないと思います。心から役に立ったと思いました。「子どもを抱いただけで感謝されてお金がもらえるんだ」と思うくらいでした。

 子どもと接するこの仕事は、今まで目指していたすごい自分でなくても、誰かに認められる人間でなくても、良心から「人の役に立ちたい」という素直な思いを引き出してくれ、「役に立つってこういうこと!?」と気づかせてくれるという点に働く楽しさがあると思います。

 

仕事をする中で大変なことはありますか?

 小学生も利用しますが、子どもは泣いたり怒ったりするし、こちらもイライラしてしまうときがあります。このまま一緒にいたら、教員だったころの「ねばならい」という自分が出てきそうになってしまうので、それを団会議でみんなに相談しました。そうしたら共感してくれる人がいて、イライラしてしまったときは無理をせず交代してほしいと伝えるようにしています。器以上にがんばり過ぎたり、かっこつけすぎちゃったなと思ったときがあったので、なるべくイライラしないで楽しく働けるよう素直に気持ちを伝えるようにしています。

 

常勤(フルタイム)と非常勤(パートタイム)で仕事内容の差はありますか?

 ここでは常勤と非常勤で差はありません。それは立ち上げ当時からそうで、見ただけでは誰が常勤か非常勤かわからないと思います。だから、「非常勤なのに常勤と同じことをしないといけない」という不満が出るときもあります。でも、常勤と非常勤の差なく働く姿を見てもらって、ここではこういうやり方だとわかってもらうようにしています。

 

協同労働で働く良さは何ですか?

 「振り返りノート(月のまとめ)*1」と「団会議*2」って誰がつくったのだろうと思うくらい、理にかなっていると思います。

 ショートステイ利用の小学生の男の子がいて、一言も話さないんです。朝布団からも出てこなくて、自分の思いを言語化できない。でもそれは大人も一緒だと思います。ワーカーズコープの振り返りノートと団会議は、まず自分の思いを感じて、自分の気持ちを言語化して、誰かに聞いてもらったり読んでもらったりすることができる。そして、それを批判されることなく、馬鹿にされることもなく、褒められすぎもしないところが良いところです。

 私は入ったばかりの頃、団会議に出られなかったんです。団会議の日は帰っていました。でも段々とその場にいられるようになって、そうしたら今度は意見を言いたくなったんです。それで手をあげて発言しようとするんですが涙が出てくる。私にとっては団会議は挑戦の場でした。今ではこんなに話せるようになりましたけど。笑

 そう考えると、ここでは安心して失敗ができるなと思います。以前、利用者対応で大失敗したとき、仕事として何がまずかったかは振り返りましたが、誰にも責められませんでした。教員の頃はとにかく失敗が怖かった。子どもの名前を呼び間違えないようにとか、他の先生のように自分もがんばらないとと思っていました。当時、失敗して保護者に土下座して謝った後に職員室に戻ったとき、腫れ物に触るような空気で振り返りもなく辛かったです。今思えば自分から話を聞いてもらえばよかったかもしれませが……。他にも、ここはコロナ渦でも人を切らないし、休業補償も100%だったし凄いなと思います。

 

今後どんなPokkeを目指していきたいですか?

 誰もが安心して失敗ができ、その経験を宝にして積み上げていける職場にしていきたいです。そのためには、意見を「言っても仕方ない」「変わらない」という思いから「言ってよかった」「少しずつでも変えていけるんだ」に変わる仲間づくりができるようにしたいと思っています。そのために、例えば答えのないことをテーマに3~4人の仲間で話し、聞くような時間をつくることがあります。テーマは「ありのままって何だろう」「居場所って何だと思う」などです。答えはないからこそ、誰もが思うことを口にして良い。そして最後に、今のみんなが思う「ありのまま」や「居場所」はこれだねと共有するようにしています。他にも、対立しがちな保育観について共通認識を持つために、研修担当係がいくつかの動画をYouTubeからピックアップしてキッチンや事務の担当者も含めて全員が見るなどの取り組みを進めています。人それぞれ経験の差があるからこそ必要な取り組みになっています。

 また、先ほど団会議を挑戦の場だったと言いましたが、今は「物事を決める場」だと捉えています。コロナ禍によって、団会議の進め方が変わりました。それは、事前に議題を伝えて、それに対する一人ひとりの意見を紙に書いて出してもらうようにしたことです。そして団会議で「この議題に対してこういう意見が出されましたがどうですか」とさらに意見を求めます。それによって、誰か特定の人がしゃべる会議ではなく、みんなの意見が反映される会議になってきました。だから、団会議の場で決定したことについて納得感をもって取り組む雰囲気が生まれています。

 振り返ってみると、Pokkeが開所してすぐに入団し14年が過ぎました。組織も成長(?)するのだなぁと実感しています。以前、ワーカーズコープの集会で聞いた「大変だった時が一番楽しかった。その時の仲間を思い出す」という発言。当時は「そんなものかなー。ふーん」と聞き流していましたが、今はその気持ちがわかる気がします。「自分はなぜ14年働けたのか?」を私なりに振り返っていますが、まだうまく言葉にできません。ただ、日々素直な気持ちで「感謝・思いやり・誇り」に立ち戻りながら、子どもたちを乗せて仲間と一緒に「Pokke」という船を笑顔で安全に漕いでいきたいです。

 

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